自治体のAI活用は「やれたらいいね」から「やるべきこと」に変わった

2025年12月23日、日本初となる「人工知能基本計画」が閣議決定されました(内閣府は2026年2月6日に公表)。この計画の根拠となるAI法(人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律)には、国・地方公共団体・事業者等の責務が定められています。もはやAI活用は、意識の高い自治体だけの話ではなくなりました。

では、実際の現場ではどこまで進んでいるのか? 直近3ヶ月(2026年1〜3月)にデジタル庁ニュース等で公表された事例を中心に、自治体DX・AI活用のリアルをお伝えします。

数字で見る、自治体AI導入の現在地

まず、全体像を押さえておきましょう。

日本総研が2026年1月に公表した分析によると、全自治体のAI導入率は2018年末の5.8%から2024年末には59.2%まで伸びました。生成AIに限っても導入率は32.0%に達しています。

ただし、この数字には大きな偏りがあります。

人口規模による格差は依然として大きく、小規模自治体では人材不足と予算確保の難しさが導入のハードルになっています。

chiiki-score.com では、こうしたDX推進度の差を全国1,741市区町村すべてについてスコア化・可視化しています。全国TOP100人口規模別DXランキングもご覧ください。

事例① 郡山市(福島県)― 要介護認定にAIを導入、認定調査票確認が約8倍の効率化

2026年3月27日にデジタル庁ニュースで取り上げられた注目事例です。

何が課題だったのか

郡山市では要介護認定の申請件数が年度により1万5千〜1万8千件規模で推移しています(2018年度1万4,969件、2023年度1万7,261件)。国が定める標準処理期間は「申請から判定まで30日」ですが、2018年度の実績は平均45.1日。担当職員の超過勤務は月平均約43時間と、市職員全体の約4倍に達していました。

AIで何が変わったか

認定調査票の整合性チェックにAIの自然言語処理を導入。従来、職員が目視で1件あたり平均約40分かけていた作業が、AI導入後は約5分にまで短縮されました。約8倍の効率化です。

この結果、2021年度の平均処理日数は35.7日まで短縮(2018年度比で約10日改善)。超過勤務時間も2018年度の月平均43時間から2021年度は13時間まで削減されました。

一方、近年は申請件数の増加もあり、2023年度の平均処理日数は53.1日、2024年度は49.9日と再び延びており、業務改善は一度で終わらない継続的な取り組みであることもうかがえます。

ポイント

この取り組みは、2018年に着任した介護保険課の係長が「AIで自動化できないか?」と発案したことが起点になっています。トップダウンではなく、現場の職員の問題意識から始まり、業務の棚卸しを経て「デジタル化すべき業務」と「人が処理すべき業務」を仕分けする地道なプロセスが成果につながりました。

郡山市のDXスコア(66.0点 / 全国422位)もご覧ください。

事例② 下呂市(岐阜県)― 会議業務を9時間→50分に短縮

2026年1月15日にデジタル庁が公表した共創PFキャンプの事例です。

やったこと

下呂市では、AI機能付きのGoogle Workspaceを全庁で業務活用しています。会議の事前意見収集、自動文字起こし、議事録作成をAIに任せることで、会議の資料作成から議事録共有までの一連の工程を9時間から約50分に短縮しました。

現場の声

下呂市で最高デジタル責任者補佐官を務める担当者は、こう語っています。

「最新のツールを入れただけ、職員研修をしただけでは成果が出ない。業務プロセス全体を変革できるまでAIを組み込もうとする意識が重要

ツール導入がゴールではなく、業務の進め方そのものを変えることが成果を生むという、示唆に富んだ事例です。

下呂市のDXスコア(81.0点 / 全国67位)もご覧ください。

事例③ 善通寺市(香川県)― 職員がChatGPTでAI画像解析システムを内製

同じく2026年1月15日公表の共創PFキャンプで紹介された事例です。

背景

固定資産税の業務では、土地の現況を把握するために航空写真が不可欠です。しかし香川県が航空写真撮影を廃止したことで、市単独で撮影を依頼すると高額で、近隣自治体との共同発注でも3年に1回が限界でした。税務課の職員数も2023年の6人から2025年には4人へ減少する中、効率化は必須の課題でした。

AI活用の内容

善通寺市は、航空写真の代わりに比較的安価な衛星写真を採用。過去の衛星写真との差分をAIで検出するシステムを構築しました。

驚くべきは、このプロトタイプを職員自身がChatGPTとの対話でコーディングして作った点です。無料のオープンソースGIS「QGIS」とPython、Excel VBAを組み合わせ、ChatGPT-4o APIで画像を比較・変化検知する仕組みを実現しました。開発費用は約120万円。同種のシステムを外注すれば3千万円規模になると言われる中、約25分の1のコストで内製に成功しています。

ポイント

予算の限られた小規模自治体でも、生成AIを「プログラミングの相棒」として活用すれば、高度なシステムを自力で構築できることを示した事例です。外部ベンダーに丸投げしない「内製型DX」の好例と言えます。

善通寺市のDXスコア(63.7点 / 全国506位)もご覧ください。

事例④ 築上町(福岡県)― 約200人規模の自治体が直面するDXのリアル

2026年3月31日にデジタル庁ニュースで公開された、小規模自治体のリアルな奮闘記です。

課題

築上町(人口約1万6千人)の役場職員は約200人。アナログ規制の見直しは企画財政課の係長が1人で担当していましたが、人員不足で取り組みを一時中断せざるを得ない状況に陥りました。

「アナログ規制の見直しは私一人で進めていたため、係員に振るのも申し訳なく、一度取り組みを中断することにしました」

担当係長のこの言葉は、多くの小規模自治体の実情を代弁しています。

生成AIによる打開

2026年1月にデジタル庁の担当者が築上町を訪問。条例改正の方向性を検討する素案作りに多くの工数がかかっていることを確認し、生成AIで素案のたたき台を作成する方法を提案しました。築上町の見直し関連資料とプロンプトを組み合わせることで、1人でも作業を前に進められる道筋が見えてきました。

ポイント

華やかな成功事例の裏で、多くの小規模自治体がリソース不足に苦しんでいます。この事例が教えてくれるのは、生成AIは「人手が足りない」という最もリアルな課題を解決するツールになりうるということです。

築上町のDXスコア(41.0点 / 全国1,291位)もご覧ください。

2026年、自治体DXは「格差の拡大期」に入る

4つの事例を並べると、見えてくるのは自治体間の「DX格差」の拡大です。

2025年12月には総務省が「自治体におけるAI活用・導入ガイドブック」第4版を公表し、生成AIの利用方法やガイドラインのひな形が整備されました。制度面の環境は整いつつありますが、それを活用できるかどうかは各自治体の人材と予算次第です。

人口減少が加速する中、DXに取り組める自治体と取り組めない自治体の差は、住民サービスの差に直結します。chiiki-scoreは、その差を「見える化」することで、一つでも多くの自治体がDX推進に踏み出すきっかけを提供したいと考えています。

あなたの街のDXスコアは?

chiiki-score.com では、全国1,741市区町村のDX推進度をスコア化・ランキングしています。今回紹介した4自治体のスコアも下記からチェックできます。

※ この記事で紹介したデータ・事例の出典:
・デジタル庁ニュース「要介護認定事務の効率化はこう進める:郡山市に学ぶ、業務の棚卸しからAI導入まで」(2026/3/27)
・デジタル庁ニュース「自治体業務をAIで改善。実践と実装拡大のコツを先進事例から学ぶ【共創PFキャンプ】」(2026/1/15)
・デジタル庁ニュース「『小さな自治体でも進められる』築上町の実践が示すアナログ規制見直し推進と意識改革のヒント」(2026/3/31)
・日本総研「データから見る地方自治体のAI活用の現在地点と浮かび上がる課題」(2026/1/29)
・総務省「自治体におけるAI活用・導入ガイドブック〈導入手順編〉第4版」(2025年12月)
・内閣府「人工知能基本計画」(2025年12月23日閣議決定)