政令指定都市のDX格差が拡大——全20市を一斉比較

全国20の政令指定都市におけるデジタル変革(DX)の進捗状況を調査した結果、都市によって大きな進捗格差が存在することが明らかになりました。総務省の令和6年度調査によると、政令市の平均DXスコアは78.2点で、全国市区町村平均の53.1点を大きく上回っています。しかし、この平均値の裏には、トップ層とボトム層での大きな開きが隠れており、大都市だからこそのDX課題が浮き彫りになっています。

DXスコアの算出は、①DX推進体制、②AI・RPA・テレワーク導入状況、③マイナンバーカード普及率、④行政手続のオンライン化(32手続)、⑤オンライン利用率の5項目から構成されています。これらの指標を通じて、各都市の組織体制から住民サービスの実装、そして利用定着までの一連のDXプロセスを評価しています。

TOP10市の特徴——オンライン利用率の二極化が顕著

順位 都市名 DXスコア 全国順位 推進体制 AI/RPA/テレワーク オンライン利用率
1位 堺市 91.8点 全国3位 85.7 100.0 100.0
2位 横浜市 91.6点 全国5位 100.0 100.0 100.0
3位 大阪市 90.4点 全国6位 100.0 100.0 100.0
4位 岡山市 87.9点 全国13位 100.0 100.0 100.0
5位 京都市 87.2点 全国15位 100.0 100.0 100.0
6位 新潟市 86.6点 全国18位 100.0 83.3 100.0
7位 神戸市 86.3点 全国19位 85.7 100.0 100.0
8位 熊本市 85.3点 全国26位 85.7 100.0 100.0
9位 名古屋市 84.9点 全国28位 85.7 100.0 100.0
10位 川崎市 81.9点 全国51位 71.4 100.0 100.0

政令市TOP10に入る都市の共通特性として、オンライン利用率で100.0点を獲得した都市が大多数を占めることが挙げられます。特に堺市、横浜市、大阪市、岡山市、京都市の上位5市は、オンライン手続の提供だけでなく、その利用が浸透している点で他市と差別化されています。

重要な知見:全国20政令市中、オンライン利用率100.0点を達成した都市は9市に限定されており、これがDXスコアの上位10市内定を大きく左右しています。つまり、DX推進体制やシステム導入だけでなく、住民による実際の利用定着が高スコアの必須要件となっているということです。

一方、川崎市(全国51位)がTOP10内にとどまるのは、DX推進体制で71.4点と他の項目より劣っている点が影響しています。大規模都市であっても、組織的なDX推進体制の整備が遅れると、全体スコアに直結することを示す事例です。

下位層の課題——「利用率の崩壊」と「システム導入の遅れ」

一方、政令市の下位層は深刻な状況を呈しています。福岡市は全国151位で75.6点、仙台市は全国163位で74.9点など、20市中11位以下の都市は軒並み全国200位以内に留まっています。特に注目すべきは、オンライン利用率です。

福岡市のオンライン利用率は18.1点に留まり、さいたま市が21.9点、広島市が19.9点など、下位層は共通して利用率が大幅に低下しています。これらの都市の多くは、行政手続のオンライン化(32手続)は50点台から90点台と悪くない数字を示しているにもかかわらず、です。つまり、「サービスは用意されているが、住民が使わない」という深刻なミスマッチが発生しています。

警告信号:相模原市は65.0点(全国455位)でオンライン利用率11.5点、静岡市は63.3点(全国522位)でオンライン利用率14.8点と、単なる「導入遅れ」ではなく「利用定着の深刻な失敗」を示唆しています。

さらに北九州市(全国840位、54.9点)の場合、AI・RPA・テレワーク導入が0.0点であり、内部的なDX推進体制は100.0点にもかかわらず、実装段階で大きな停滞があることを示しています。これは組織内の意思決定と現場実装のギャップを象徴的に表しています。

大都市DXの共通課題——「手続オンライン化」と「推進体制」の軽視

全20政令市を横断的に分析すると、共通の課題が3つ浮かび上がります。

第一に、**行政手続のオンライン化の停滞**です。TOP3の堺市(92.0点)、横浜市(72.0点)、大阪市(68.0点)と比較すると、下位層のさいたま市(64.0点)、札幌市(58.0点)、熊本市(57.0点)の差は、30点前後に留まっています。これは、「32手続の全オンライン化」という目標自体が、自治体間での優先度付けが大きく異なっていることを意味します。特に仙台市(46.0点)や相模原市(46.0点)は、全国の類似規模自治体と比較しても手続オンライン化の推進が遅れているとみられます。

第二に、**DX推進体制の二層化**です。100.0点を獲得している自治体が多い一方で、川崎市(71.4点)、千葉市(71.4点)、静岡市(71.4点)といった大規模都市でさえ、体制スコアで0.3点分の減点を受けています。これは、CIO(最高情報責任者)の配置、DX推進部門の独立性、予算確保体制など、形式的には整っていても実効性に欠ける状況を示唆しています。

第三に、**オンライン利用率と手続オンライン化率の乖離**です。福岡市のようにオンライン化は92.0点と高いのに利用率18.1点という大きなギャップは、単なる「住民周知の不足」では説明できません。これは、提供されるオンライン手続が実際のニーズにマッチしていない、あるいはUX(ユーザー体験)の設計に問題がある可能性を示しています。

マイナンバーカード普及率——政令市の強み、だが伸び悩みの兆候

興味深いことに、マイナンバーカード普及率(80点前後)は、政令市全体で比較的高い水準を保っており、スコア間での差別化要因になっていません。最高の横浜市で81.1点、最低の北九州市で74.0点と、わずか7.1点の差に留まっています。

これは、マイナンバーカードの普及が「政令市という人口集中地域では、すでに一定の飽和状態に達している」ことを示唆しています。つまり、今後のDX推進では、マイナンバーカード普及率は差別化要因から維持要因へとシフトしつつあり、その先の「デジタル手続の実利用促進」がより重要になっていくということです。

自治体が取るべき戦略——スコア向上へのロードマップ

政令市のDX状況を踏まえると、各自治体が優先すべき施策は、現在のスコア帯によって異なります。

上位層(85点以上)の課題: 堺市、横浜市、大阪市など上位都市は、既にDX基盤の構築がほぼ完了しており、今後は「DXの深化」に注力すべきです。具体的には、AI・RPA活用の対象業務拡大、市民協働型のデジタルサービス開発、スマートシティの実装などが考えられます。

中位層(80~85点)の課題: 川崎市、新潟市、神戸市などは、DX推進体制の強化と、手続オンライン化の加速が急務です。特にDX推進体制で71~85点に留まっている都市は、首長直下のDX推進室の設置やCIOの権限強化など、組織体制の再構築が必要です。

下位層(75点未満)の課題: 福岡市、さいたま市、相模原市などは、「オンライン利用率の向上」を最優先にすべきです。単なるシステム導入では不十分で、市民向けの利用教育、UI・UXの抜本的改善、利用促進キャンペーンが必要です。また、北九州市のようにAI・RPA導入が0.0点の場合は、まず内部的なデジタル化から着手する必要があります。

全政令市共通の推奨施策: 利用率の改善には、オンライン手続の「利便性向上」だけでは不足です。マイナンバーカードとの連携強化、スマートフォンアプリ化、24時間対応のAIチャットボット導入など、利用者の心理的障壁を下げる施策が必須となります。特に下位層の自治体では、このギャップ解消が全体スコア向上の最大のレバレッジになる可能性があります。

全国20政令指定都市の平均スコア78.2点は、全国平均53.1点を大きく上回り、大都市のDX推進の優位性を示しています。しかし、その内実を見ると、上位と下位の開きは依然として大きく、特に「実装から利用定着への段階」で失敗している都市が少なくありません。今後の自治体DXは、体制整備やシステム導入よりも、市民による「実際の使用」を促進できるかどうかが、真の差別化要因になることは確実です。

出典:総務省 令和6年度調査(地域スコア集計)